世界を股にかけて活躍する起業家に聞くiPhoneの衝撃
Mac People (日本)IT業界にも携帯業界にも精通し、日本市場も海外の市場にも明るい−イマヒマ(株)代表取締役のニラジ・ジャンジは、今、日本でもっとも注目すべき企業家の1人だ。なかなか成功しない、日本ベンチャーの海外進出や海外ベンチャーの日本進出の成功のカギを知っているのは、「日本と世界の橋渡しをしたい」という彼かもしれない。
日本と世界をつなぐ若きインド人起業家
筆者が最近、強く願っているのが、日本発の世界に通じるベンチャー企業の興隆だ。残念ながら日本では、最近、ベンチャー企業だけでなく、大手のメーカーでさえも、国内市場ばかりに目を向けている。そんな中、経営者こそ日本人ではないが、日本を拠点に、世界規模で活躍する元気な企業を発見した。日本在住12年のインド人、ニラジ・ジャンジ氏が経営するイマヒマ(株)だ。「日本と世界の橋渡しになりたい」と語るジャンジ氏。すでに一定の成果を上げており、その活躍ぶりはWallstreet Journal紙やWired誌といった海外の媒体でも報じられている。 「イマヒマ」は、'99年、携帯電話を使ったソーシャルネットワークの草分けとして誕生したサービスの名前でもある。イマヒマは、その後、iモード公式コンテンツを経て、他社の携帯電話にも対応、さらにヨーロッパの国々にも広がり、オーストリアで開催されるメディアアートの祭典、「アルスエレクトロニカ」で賞を受けた実績もある。
それにあわせて、イマヒマ社もタイムワーナーAOLなど世界的な大企業と組み、国内外で携帯電話向けコンテンツの開発を開始。 日本発のサービスや技術を海外で展開する一方で、海外の優れたサービスを見つけて国内展開も始めた。フィンランド発のコミュニティーサイト、Habboホテルを日本で展開し、3年間で50万人のユーザーを獲得している。
また、個人的に愛用していたWebアプリケーションを開発するオーストラリアのアトラシアン社と契約し、日本の販売代理店となる。アトラシアン社のWebアプリケーションは、ヤフー(株)の3000人を超える全社員が使っているのをはじめ、全日本空輸(株)や、(株)東芝、オムロン(株)などそうそうたる企業が採用する静かなヒット商品だ。
軸となるのは「日本」「ケータイ」「アップル」
国際的に活躍するジャンジ氏だが、ビジネスの起点は、人生の3分の1を過ごした「日本」にある。これに加えて、彼を大手メーカーから独立させるきっかけともなった「携帯電話」、ハワイ大学で日本経営を学んできた頃から愛用している「アップルの製品」の3点が軸になっているようだ。そのアップルが携帯電話のiPhoneを出したことで、彼も大きな衝撃を受けたようだ。今回のbiz Macでは、ジャンジ氏に日本のベンチャービジネス、アップル、そしてiPhoneについて話を聞いた。
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こだわりと情熱で日本と世界をつなぐ。
iPhoneで再確認 細かなこだわりがカギ
'99年2月の「iモード」リリースを機に、務めていたメーカーを辞め独立したニラジ・ジャンジさん。彼の仕事の多くは、「携帯電話」と関係がある。「('99年当時、)既にパソコン向けのインターネットでは、Yahoo!やeBayのような巨大な企業が地盤を築いていましたが、『モバイルインターネット』は、未開拓の世界で、この世界が持つポテンシャルに強く惹かれました。」
ジャンジ氏自信も「携帯電話」が好きで、海外の最新式携帯電話を買い集めてもいる。「海外の取引先とのやりとりにはSMSが必要だから」とは言うものの、半分は趣味でもあるようだ(SMSは世界中の携帯電話が採用しているメッセージ交換機能)。
当然のように、「iPhone」もリリース直後に手に入れている。アップル好きでもある彼にとって「iPhone」はかなり衝撃的な製品だったようだ。
「他社のスマートフォンの5年先をいっていますね。まず驚いたのはセットアップの簡単さです。」
海外での携帯電話購入は、日本以上に待たされるというだけに、iTunesで初期設定をできることに感動したようだ。
「スティーブ・ジョブズCEOの、使いやすさに対する細かなこだわりには本当に感心します。他の携帯電話は既存製品のアップデートに過ぎません。これに対してiPhoneは、携帯電話のあるべき姿をゼロから作り直したことも強みですね。」
iPhoneを手に入れたことで、今、彼の愛用のガジェット4つが用済みになりかけている。音楽を聴くためのiPodと無線LAN接続でWebブラウジングを楽しんでいたモバイルインターネット端末の「Nokia N800」、この2つはiPhoneで完全に代用できる。3つめは、PDAのPalmだが、iPhoneのNote機能が実現していない手書き入力機能があるので、まだ携帯する価値はあると語る。そして4つ目が、SMSや通話用として愛用しているスマートフォンの「Nokia E61」だが、これもiPhoneの日本発売が始まるまでの命だろうと言う。
「Macのおかげで、仕事のストレスがかなり緩和されている。これがPCだったら、仕事の楽しさが半減していたでしょう。」
ジャンジ氏がMacに出会ったのは12年前、ハワイ大学に在学していたときのこと。
「最初はDTPソフトなどを使っていましたが、文字表示がとてもきれいで感動しました。」
イマヒマ社の社員はPCユーザーも多いが、彼らを横目でにらみつつ、「ウィルスメールもなく、OSの動作も安定し、スリープからの復帰も早い」Macに感謝している。そんな彼の周りの起業家や取引先にもMacユーザーが多いという。例えば販売契約を結んでいる「JIRA」、「Confluence」といったソフトの開発元であるアトラシアン社の創業者もMacユーザーだ。
「使いやすさへの工夫があったり、デザインがよかったり、細かな配慮があったり、なんとなく臭いでもMacユーザーが開発したことが伝わってきます。」
国際的な視点からの日本企業への提言
イマヒマ社は小さい会社ながら、いくつもの事業を展開しており、ジャンジ氏も時間を細分化し、複数の仕事を同時にこなしている。 こうしたワークスタイルを支えてくれるツールを探していたところJIRAに出会い、惚れ込んで日本代理店となった。海外企業が日本で成功するのは難しい、とジャンジ氏は言う。「日本は米国など、海外からの影響を受けつつ、少しずつ違った展開をみせる特殊な市場です。Yahoo!がGoogleよりも強かったり、eBayが撤退したりと一筋縄ではいきません」
コツを掴んでいる企業でないとなかなか成功できないと言う彼は、海外の優れたソフトを見つけ、その日本での展開を手助けするのが最近の主な仕事だ。国内代理店業務だけでなく、現在は海外企業が日本市場に進出しやすいように、コンビニ払いなどにも対応した簡便な決済システム、「PayMe」の開発に力を入れている。海外企業に日本参入の手引きをする一方で、ジャンジさんは、日本の企業にも、もっと海外の動向に注意して欲しいと考えている。
「日本は第二の経済大国だし、ユニークなことをやってナンバー1になれば十分な成功を収められるでしょう。しかし、その成功は限られたものであることも知っておく必要はあります。日本は地理的にも、言語的にも他の国と一線を引いているため、この国だけのルールややり方をつくって、その中でうまくものごとを回していくことができます。ただ、iPhoneのような革新的な製品によってこれまで築いてきたルールが崩されてしまうこともあります。そうした中で、もっとうまくやっていくためにも、世界の流れに目を向けた方がいいのではないかという気がしています。」
そんなジャンジさんも、1000万人市場を目指すiPhone関連のビジネスについては、まだ名案が浮かんでいないようだ。
「今のiPhoneは、アップルが完全にコントロールしている世界です。これまでの携帯電話向けインターネットサービスを打ち壊す力は持っていても、この上で、どういうビジネスを展開したら成功できるのかは、まだ見えてきていません。」
イマヒマ社は、最近、軌道に乗ってきたHabboホテルの事業を独立させ、新体制を建て直しているところ。iPhone元年の今年は、ジャンジ氏にとっても、大きな転機となりそうだ。
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ジャンジ氏のハードディスクを見てみると、インストールしているソフトは以外にも定番のものばかり。珍しいのは「SubEtheEdit」くらいだろう。
文章を書くときはWordかPages、プレゼンにはKeynote、画像をいじるために、ためにPhotoshopを起動する程度。あとはSafariとMailですべてを済ませているという。それもそのはず、ジャンジ氏が愛用するアプリケーションのほとんどはウェブ上にある。
「経営者としての自分は、ゲームメーカーでもあり、ゴールキーパーでもある。事業を立ち上げる際はゲームメーカーとしてどんな人材が必要かを見極め、それに合った環境を用意する。あとはゴール際で行く末を見守る」
- そう語る彼の業務は、資料や書類の作成よりも、電子メールを使った進捗の確認と案件の割り振りが中心だ。そこでこのページでは、ジャンジ氏が使っているツールと併せ、彼がこれまで立ち上げてきた製品やサービスを紹介しよう。
イマヒマとHabboホテルは、ソーシャルネットワーキングにも似たコミュニティー系のウェブサービスだ。mixiと違う点は国際的に展開していること。これにより数十万人の会員を集め、事業としても成功している。ほかにも、ハリー・ポッターの公式ウェブサイトや携帯電話向けAOLインスタントメッセンジャーサービスの開発、といった事業も手掛けている。
複数の仕事をうまく回すためのツールを探していたときに出会ったのが「JIRA」だった。ソフトの完成度の高さにひかれたジャンジ氏は、やがて同ソフトの日本の販売代理店となる。JIRAの開発元の豪アトラシアン・ソフトウェア社は企業向けWikiの「Confluence」というソフトも開発している。最近、企業向けWikiが経営者から注目され始めており、Confluenceの引き合いも増えてきているという。
現在、ジャンジ氏はHabboホテルの国内事業展開のために準備した決済システム、PayMeの改良に力を注いでいる。
- 林信行